マドリードで知らない御婦人とレクイエムを聴く
スペインのマドリードに例によってえらい先生のかばん持ちで行った時の話。期間中の夜、マドリード国立音楽堂でモーツァルトのレクイエムと、ピアノ協奏曲第9番「ジュノーム」が演奏されることをチェックしていたので、ホテルから30分ほどテクテク歩いて当日券を買いに行った。何があるかわからなかったので、予約するのはやめておいたのだった。
しかし案の定というか、チケットカウンターに赴くと当日券はないことを伝えられる。まあそうだよな、と肩を落とすと、受付の方が「チケットはないが、このあたりにいると何かいいことがあるかもしれない」と、いうようなことを伝えてきた。意味が咀嚼できなかったが、一旦指示通りに音楽堂前の広場に佇んでみた。
しばらくすると、落ち着いた雰囲気の老婦人が近づいてきた。なんだろう、と思っていると「あなた、チケットがないの? 一緒に聴く予定だった息子が来られなくなったから、よかったらどう?」というようなことをおそらく言ってくれた。僕が喜んで「ありがとうございます、いくらですか」と言いながら懐を弄ると、「こんなところで現金を出しちゃダメよ、危ないじゃない」と窘めてくれた。
そうして僕は御婦人と一緒に音楽堂のP席でモーツァルトを楽しんだ。せっかく恵んでもらったのに、疲れていたからか、レクイエムで少し鎮魂してしまった。この話はいろんな友達にしており、ぼくのトークデッキの中でもわりと強めのカードなのだが、なぜ受付の人が「待ってるといいことがある」と言ってくれたのかは未だにわからない。広場でチケットを融通する文化があるのだろうか。あの御婦人は、今もお元気にされているだろうか。
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